Trinite「Prayer -sabato santo-」

Introduction of “Prayer -sabato santo”

林田直樹(音楽ジャーナリスト・評論家)
ここには悩ましい夜があり、
人に言えないような憧れがあり、
闇に研ぎ澄まされた牙があり、
忘れられた悲しみと夢がある。
エンターテインメントであること、
そこに前衛を忍び込ませること、
言葉がないのに詩があること、
映像がないのに映画的であること、
俳優がいないのにドラマがあること。
それがトリニテの音楽だ。
何年も前から、少しずつトリニテを聴き続けてきた。
出会うたびにトリニテは進化してきた。
メンバーひとりひとりのベクトルが一致し、
求心力のある演奏からは、ますます自信がみなぎるようになってきた。
1st アルバム「Prayer」のライヴ盤(ラスト曲のSabato Santoのみ新トラック)である
今回のアルバムを聴いてもそれは明らかだ。
キャッチーなメロディがあるだけでなく、
そこには展開があり、発展があり、
ポップなくせに不協和な音が浮遊していて、
湿り気を帯びた哀感と、月の光と、悲しい影と、神々の死がある。
これはプログレッシヴ・ロックの和製進化形なのか?
現代音楽とロマン派のハイブリッドなのか?
少なくとも言えるのは、これはいま境界線上で起きている重要な音楽的事件であり、
あまりにも明るくなりすぎた夜の東京が忘れかけている――しかし決して失ってはならな
い――暗くて美しい風景なのだ。


Baraccone 1
人間が失ったものの歌 Song of the thing which a human being lost
Mondissimo 1
天上の夢 Dream above the heavens
Mondissimo 2